
#7|目的には物語が必要である
企業が目的をつくるとき、日本では二つの傾向がある。
ひとつは、長く続く企業が掲げてきた「正しい目的」。
安心安全、高品質、顧客第一、社会貢献。
どれも企業として当然で、間違っていない。
ただ、これらは“企業努力の宣言”であり、目的というより姿勢の表明に近い。
もうひとつは、近年増えてきたパーパス型の目的。
人々の可能性を解き放つ、未来をつくる、より良い社会を実現する。
美しく、抽象度が高く、どこにでも行ける。
しかし、どこにも行かなくても成立してしまう。
この二つの目的は、形は違っていても、現場の社員に届いたときの姿はよく似ている。
言っていることは分かる。
大切なことだというのも理解できる。
でも、自分の仕事とどうつながるのかが分からない。
どこか遠くにある言葉のように感じてしまう。
その瞬間、目的は“標語”になる。
標語は掲げた瞬間が一番強い。
しかし、日々の業務の中で静かに風化していく。
現場の空気に馴染む前に、別の標語が上書きされることもある。
目的の重要性は、誰もが理解している。
経営者も、管理職も、現場の社員も、目的が必要だということは分かっている。
それでも腹落ちしないのは、目的に「物語」がないからだ。
目的には、物語が必要だと思っている。
物語とは、立派なストーリーのことではない。
働く人が自分の仕事と自然につながる“理由”のことだ。
なぜこの商品をつくるのか。
なぜこのサービスを届けるのか。
自分の行動がどこにつながっているのか。
その線が静かに見える状態。
その線が見えたとき、目的は腹落ちする。
腹落ちした目的は、共有力を持つ。
働く人を惹きつけ、自然と行動の理由になる。
「やらされる仕事」ではなく、「自分の仕事」になる。
その共有力こそが、企業らしさの源泉になる。
そして物語は、企業が語った瞬間に完成するわけではない。
企業が語る物語は“最初の物語”でしかない。
本当に大切なのは、その物語を受け取った現場の人の中で、新しい物語として生まれ直すことだ。
自分の経験と重なり、自分の仕事の意味とつながり、自分の言葉で語り直され、自分の行動の理由として再構築される。
目的が腹落ちするとは、企業が語った物語が、働く人の中で“自分の物語”として再生成されること。
その物語は商品やサービスに翻訳され、 生活する人の気持ちと重なり、 また新しい物語として企業に返ってくる。
目的とは、
企業 → 現場 → 商品 → 生活する人 → 企業
と静かに循環しながら、その都度、新しい物語として生まれ続ける“気持ちの循環”である。
目的は、作って終わりではない。
目的は、つくり、語られ、受け取られ、受け取った人の中で新しい物語として生まれ、企業らしさとして静かに循環していく“プロセス”である。
そのプロセスの中で、働く人の気持ちが動き、生活する人の気持ちと重なり、商品やサービスとして翻訳され、価値が共有されていく。
目的とは、企業の未来をつくるための“気持ちの物語”である。
CombinedDesignらしさ
私たち CombinedDesign は、この「目的の物語」を扱うとき、企業の言葉をただ整えるのではなく、その言葉の奥にある“気持ちの構造”を丁寧に点検することを大切にしている。
目的が標語になってしまうのは、言葉が抽象的だからではなく、その言葉が生まれた“気持ちの前提”が曖昧なままだからだ。
だから私たちは、企業の気持ち、現場の気持ち、生活する人の気持ち、未来の気持ちをひとつの流れとして見直し、その流れが自然に循環するように整えていく。
目的が物語として再生成されるとき、企業らしさは静かに立ち上がる。
その瞬間こそが、CombinedDesign が最も大切にしている「気持ちをデザインする」という仕事の本質だと考えている。
あとがき
目的の重要性という少し硬い話をしてきましたが、その根底にあるのは、日々、現場で葛藤と奮闘している皆さんの気持ちです。
商品や企画をつくる人、
商品やサービスを伝える人、
売り場をつくり、接客している人、
製造する人、
物流を担う人、
働きやすさを整える人、
仕組みを活かして業務を進める人、
経営者、管理職。
どの立場の人も、「少しでも良くしたい」という気持ちで毎日を過ごしている。
その気持ちがあるから、商品やサービスは生まれ、売場は動き、ブランドは続いていく。
生活する人の気持ちを理解しようとすることは、簡単なことではありません。
でも、その難しさに向き合い続けている人たちがいるから、市場は前に進む。
そして、私自身も皆さんが届けてくれる商品や提案に、いつも心を動かされています。
目的の重要性について、最後までお付き合いいただき有難う御座います。
この連載が、皆さんの気持ちに少しでも寄り添い、何かひらめきの種になれば嬉しく思います。
日々の活動に、心からの敬意を込めて。