
#4|生活する人の気持ち
これまでは、企業側の目的について書いてきた。
Combined Designの言葉でいえば「作る側の気持ち」をどうデザインし、それが商品として翻訳され、市場に届くのかという話だった。
ここからは、生活する人が商品と出会う場面で起きている “気持ちの変化” を見ていきたい。
今の生活環境がつくる、気持ちの“ベース”。
ここ数年、生活のまわりには強いトピックスが途切れず続いている。
- 物価の上昇
- 賃金の伸び悩み
- 株高と実感のズレ
- 社会の空気
- 情報の多さ
どれか一つが決定的というより、こうした状況が重なり続けることで、生活する人の心の調子が少しずつ変わってきている。
その変化は、行動の浅さや早さ、心の省エネ、判断の代行といった形で日常の中に静かに表れている。
① 行動の変化:浅く・早く・閉じる
かつての買い物には「選ぶ時間」があった。
下見をして、触って、比べて、家で考えて、買う。そのプロセス自体が楽しさだった。
今は違う。
- すぐ買う
- すぐ決める
- SNSの評価だけで判断する
- 深く考える前に選ぶ
つまり、「考える前に選ぶ」行動が増えている。
これは生活する人の気持ちの構造が変わったサインだ。
② 感情の変化:不安の基準値が上がった
コロナ以降、生活する人の“心の基準値”は変わった。
日常の中に不安が入り込み、人は以前よりも心の負荷に敏感になっている。
- 心の耐性が下がる
- ネガティブを避ける
- 映画やドラマのしんどい場面を飛ばす
- 早送り・スキップが増える
これは一時的な反応ではなく、現代の行動変容を理解するうえで重要な兆しだ。
③ 心の構造の変化:心のエコ体質
ニュース(外側)と生活(内側)がズレている。
- 実質賃金は下がる
- 物価は上がる
- 中間層は疲弊する
このズレが、ニュースを“他人事”にし、社会への不信感を生む。
さらに、情報量の多さと日々の不安から、生活する人は心のエネルギーを節約する方向へシフトしている。
- 摩擦を避ける
- 他人の感情に巻き込まれない
- 心の消耗を最小限にする
つまり、心の省エネ運転で生きている。
この状態では、他者との価値観や世界観を共有することが難しくなる。
SNSは“価値観の共有”ではなく、判断の代行になっている。
④ テクノロジーの影響:AIが自分事の世界を強化する
AIは、
- 否定しない
- 怒らない
- 気を使わなくていい
- いつでも肯定してくれる
つまり、人間よりも“楽な相手” だ。
一方で人間は、
- めんどう
- 感情がある
- コンプラが厳しい
- 気を使う必要がある
だから人は自然にAIへ流れる。
AIは自分の好みに最適化されるため、自分事の世界がさらに強化される。
他人はますますモブ化する。
⑤ 選択させるコミュニケーションの増加
生活者の心のエコ体質と判断の代行が進むほど、企業側のコミュニケーションは「選ばせる構造」に寄っていく。
- ターゲティング広告
- SNSのリターゲティング
- 検索キーワード広告
- 店内サイネージ
- 接触回数 × 接触機会の最適化
これらは生活する人の接触回数を増やし、“無意識の判断”を後押しする仕組みだ。
生活する人は選んでいるように見えて、実際には選びやすい状態に導かれている。
⑥ このまま進むと、価値が共有されない社会になる
- 他者を想像しない
- 文脈を読まない
- 関係性が育たない
- 他人がモブ化する
- 自分事の世界に閉じる
つまり、 価値が伝わりにくい社会になる。
ブランドも文化も、協働も育ちにくくなる。
⑦ 生活する人の気持ちが企業に与える影響
生活する人の気持ちを考慮すると、節約や厳しい選択が増えていると同時に、判断そのものを外部にゆだねる傾向が強まっている。
売場や通販の商品ページは商品との出会いの場であるが、昨今では事前の擦り込み効果が重要になっている。
生活する人は深く考える前に、「見たことがある」「聞いたことがある」という心の省エネ的な判断を優先する。
その結果、次のような施策が効きやすくなる。
- 欲望の消費にフィットしたモノ・コト
- 選択させるコミュニケーション
- 強い情報(価格訴求/お得感)
- 焼き直し商品や文化に付加価値をつける
しかしどれも話題作りの領域から出ず、熱しやすく冷めやすい“欲望消化型消費”になっている。
まとめ
生活する人の気持ちは、自分でつくっているようでいて、実際には環境・情報・テクノロジーによって“形成されている”側面がある。
だからこそ企業が目的を設定する際には、生活する人の自然な気持ちが優先される状態を丁寧につくる必要がある。
Combined Designが大切にしている「気持ちをデザインする」とは、生活する人が選択する楽しさを自然に感じられるように、少し先の時間(半年~1年)に芽生える気持ちを想像し、その兆しを目的として翻訳するデザインである。